10月から、パートで働く人の社会保険の加入条件が変わります。106万円の壁の記事で「手取りは減るが、増えるものが4つある」と書きました。
その4つの中で、いちばん説明が足りていなかったのが傷病手当金です。
病気やケガで働けなくなったとき、給料の3分の2が、最長1年6か月出る制度。会社員なら全員が持っていて、ほとんどの人が中身を知りません。
医療保険に入る前に、これを知っておいてください。すでに持っている保険の話です。
- 傷病手当金が出る4つの条件
- 月給別にいくら出るか(月給30万円なら月20万円)
- 最長1年6か月で、合計いくらになるか
- もらえない人は誰か(自営業・扶養内パートは対象外)
- 休んでいる間も引かれ続けるもの
- 辞めたあとももらい続けられる条件
傷病手当金とは、何か

健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)に入っている人が、業務以外の病気やケガで働けなくなったときに、健康保険から給付されるお金です。会社が払うのではありません。
出る条件は4つです。
| 条件 | 補足 | |
|---|---|---|
| ① | 業務外の病気・ケガ | 仕事中・通勤中のケガは労災保険(別の制度) |
| ② | 働けない状態 | 医師の意見をもとに判断される。うつ病などの精神疾患も対象 |
| ③ | 連続3日休んだあと、4日目から | 最初の3日は「待期」。有給・土日を含めてよい |
| ④ | 給与が出ていない | 給与が出ても手当金より少なければ、差額が出る |
③の待期は、「連続3日」が条件です。月・火・水と休んで木曜から出る。飛び飛びに3日休んでも、待期は完成しません。ただし、この3日は有給休暇でも土日でもかまいません。
いくら出るのか

計算式は、これです。
「標準報酬月額」は、ざっくり言えば給料の額面(残業代や通勤手当を含む)を等級に当てはめたものです。給与明細の社会保険料の欄から逆算できます。
| 標準報酬月額 | 1日あたり | 30日休むと | 1年6か月なら |
|---|---|---|---|
| 8.8万円(パート) | 1,953円 | 58,590円 | 約107万円 |
| 20万円 | 4,447円 | 133,410円 | 約244万円 |
| 30万円 | 6,667円 | 200,010円 | 約365万円 |
| 44万円 | 9,780円 | 293,400円 | 約536万円 |
※日額は協会けんぽの計算方法(÷30の段階で10円未満を四捨五入、×3分の2の段階で1円未満を四捨五入)で算出。1年6か月=548日で計算。
月給30万円の人なら、月20万円。額面の3分の2ですが、手取り(約23万円)と比べると約85%です。そして傷病手当金には税金がかかりません。
これを、民間の医療保険や就業不能保険と比べてみてください。月20万円を1年6か月、合計365万円の保障を買おうとしたら、保険料はいくらになるか。それを、会社員は最初から持っています。
もらえない人は、誰か

ここが、いちばん誤解されているところです。
| 立場 | 入っている保険 | 傷病手当金 |
|---|---|---|
| 会社員・公務員 | 健康保険(協会けんぽ・組合・共済) | ある |
| 社会保険に入っているパート | 健康保険 | ある |
| 扶養に入っているパート | 配偶者の健康保険の被扶養者 | ない |
| 自営業・フリーランス | 国民健康保険 | ない(原則) |
国民健康保険には、傷病手当金がありません。自営業やフリーランスの人が病気で働けなくなると、収入はその日からゼロです。
そして、扶養に入っているパートの人も対象外です。自分の名前で健康保険に入っていないからです。
10月から社会保険に入ると、この状態が変わります。年金の記事で「厚生年金は10年で月4,823円増える」と書きましたが、それは老後の話。傷病手当金は、来月倒れたときの話です。月8.8万円のパートでも、月5.9万円が最長1年6か月出ます。
休んでいる間も、引かれ続けるものがあります
ここは正直に書いておきます。傷病手当金をもらって休職している間も、社会保険料は払い続けます。
給料が出ていないので天引きができません。だから会社から「本人負担分を振り込んでください」と言われるか、傷病手当金を会社経由で受け取って、そこから差し引かれます。
標準報酬月額30万円なら、健康保険料(約5%)と厚生年金保険料(9.15%)の本人負担で月4万円ちょっと。月20万円の傷病手当金から引かれると、手元に残るのは約16万円です。
住民税も、前年の所得にかかるので払い続けます。住宅ローンの返済も、家賃も止まりません。手取り16万円で暮らせるか——ここが、生活防衛資金がいくら要るかの答えでもあります。
辞めたあとも、もらえます(条件つき)
「休職が長引いて、結局辞めることになった」というケースは珍しくありません。その場合でも、条件を満たせば退職後も傷病手当金は続きます。
- 退職日までに、健康保険に継続して1年以上入っていた
- 退職日に、傷病手当金を受けているか、受けられる状態だった
この2つを満たしていれば、辞めたあとも、支給開始から通算1年6か月まで受け取れます。
「最後の日だから挨拶に」と出勤すると、その日は「働けない状態」ではなくなり、継続給付の条件が切れることがあります。退職日は休んでください。これは制度上の落とし穴で、知らずに損をする人がいます。
「通算」1年6か月です
2022年1月から、支給期間の数え方が変わりました。
以前は「支給開始から1年6か月が経過したら終わり」でした。途中で復職して、また休んだ場合、復職していた期間も1年6か月の中に含まれてしまっていました。
いまは「通算」です。復職して傷病手当金をもらわなかった期間は数えません。実際にもらった日数の合計が1年6か月に達するまで、受け取れます。
がんの治療などで、働いたり休んだりを繰り返す人にとっては、大きな改善でした。
申請の流れ
やることは3つです。
- 会社に伝える……人事や総務に「傷病手当金を申請したい」と言う。申請書は協会けんぽのサイトからも取れます
- 医師に書いてもらう……申請書の「療養担当者記入欄」。診断書とは別です
- 会社に証明してもらう……出勤していないこと、給与が出ていないことを会社が記入する
提出先は、加入している健康保険(協会けんぽの都道府県支部、または健康保険組合)。1か月ごとに申請するのが一般的です。振り込まれるまで、申請から2〜3週間かかります。
時効は2年。過去にさかのぼって申請することもできます。「あのとき知らなかった」という方は、2年以内なら間に合います。
正直に言うと
医療保険の広告を見ると、「入院1日1万円」「がんで100万円」と書いてあります。
でも、病気で本当に困るのは入院費より、働けない期間の収入です。高額療養費があるので、医療費そのものには上限があります。上限がないのは、収入が止まることのほうです。
その収入を、会社員は最初から3分の2持っています。1年6か月、合計365万円(月給30万円の場合)の保障を、保険料なしで。
- 自分は傷病手当金の対象か(健康保険に自分の名前で入っているか)
- 手元に残る約16万円で、何か月暮らせるか
対象で、16万円で暮らせるなら、医療保険はほとんど要りません。暴落の記事で「生活費が預金から出せるなら売らなくていい」と書きましたが、病気のときも同じです。傷病手当金と生活防衛資金があれば、積立を崩さずに済みます。生命保険の見直しの記事で「必要なのは3つだけ」と書いたのは、この前提があるからです。
逆に、自営業・フリーランス・扶養内パートの人は、この保障がありません。その場合は、傷病手当金の代わりになるもの——生活防衛資金を厚くするか、就業不能保険を検討するか——を考える必要があります。「会社員向けの記事だから関係ない」ではなく、持っていないことを知っておくのが、この記事の使い方です。
そして10月、社会保険に入るかどうかで迷っているパートの方へ。手取りが減るのは事実です。でも減る分は「保険料」で、その保険にはこれが含まれています。年金の月4,823円だけを見て決めないでください。
今日やること
ひとつだけです。
健康保険証(またはマイナ保険証の登録先)を見て、自分が「被保険者」か「被扶養者」かを確認してください。
被保険者なら、傷病手当金があります。被扶養者なら、ありません。ここを知っているかどうかで、医療保険にいくら払うべきかの答えが変わります。
まとめ
- 傷病手当金は健康保険の給付。会社員と社会保険加入のパートにはある。自営業・扶養内パートにはない
- 条件は業務外・働けない・連続3日休んだ翌日から・給与が出ていない
- 額は標準報酬月額÷30×3分の2。月給30万円なら月20万円、非課税
- 期間は通算1年6か月。復職した期間は数えない
- 休職中も社会保険料は払い続ける。手元は月16万円ほど
- 退職後も続く。ただし退職日に出勤しない
- 時効2年。さかのぼれる
新しく保険に入る前に、いま持っている保険の中身を知ってください。会社員がいちばん大きな保険を、いちばん知らずに持っています。
※本記事は2026年9月時点の公表情報にもとづきます。支給条件・計算方法・継続給付の要件は全国健康保険協会(協会けんぽ)の公表内容によります。健康保険組合によっては付加給付があり、支給額・期間が上回る場合があります。標準報酬月額・保険料率は加入先と都道府県で異なります。試算は概算で、実際の支給額は個別の状況により異なります。この記事は個別の助言ではありません。



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