昨日の記事で、賃貸の35年総額を「家賃+更新料」で計算しました。
でも正直に言うと、あれは少なく見積もっています。
借りている人は、家賃と更新料のほかにも払っています。引っ越すたびの礼金、仲介手数料、保証会社、火災保険、鍵の交換、引っ越し代。そして、それは一度では終わりません。
今日は、借りている人が35年で「家賃以外」にいくら払っているかを出します。そして、その中で払わなくていいものが3つあります。
- 賃貸の人は平均8年に1回引っ越している(国の調査)
- 1回の引っ越しで戻ってこないお金はいくらか
- 35年で家賃以外に払う額は家賃の約33か月分という計算
- 仲介手数料は本来「0.5か月分」が原則という話
- 退去時に払わなくていいもの(民法に書いてあります)
- 65歳以上の3人に1人が入居を断られている現実と、その備え
借りている人は、平均8年に1回引っ越しています

まず、国土交通省の「住宅市場動向調査」(令和6年度)から、民間の賃貸に住んでいる人の実像を出します。
| 月額家賃の中央値 | 6万5,000円 |
| 住み替え前の家に住んでいた期間(平均) | 8年 |
| 世帯主の平均年齢 | 38.9歳 |
| 1人暮らしの割合 | 41.1% |
※三大都市圏で2023年4月〜2024年3月に民間賃貸住宅へ入居した世帯の調査。
「8年に1回」というのが、今日の計算の軸です。35年なら4回引っ越す計算になります。
1回の引っ越しで、戻ってこないお金

賃貸の初期費用は「家賃の4.5〜5.5か月分」とよく言われます。家賃6.5万円なら30〜36万円です。
ただ、この中には戻ってくるものと戻らないものが混ざっています。分けます。
| 項目 | 家賃6.5万円なら | 戻る? |
|---|---|---|
| 敷金(1か月) | 65,000円 | 原則戻る |
| 前家賃(1か月) | 65,000円 | 家賃そのもの |
| 礼金(1か月) | 65,000円 | 戻らない |
| 仲介手数料(1.1か月) | 71,500円 | 戻らない |
| 保証会社(0.5か月) | 32,500円 | 戻らない |
| 火災保険(2年) | 20,000円 | 戻らない |
| 鍵の交換 | 20,000円 | 戻らない |
| 引っ越し業者(単身・通常期) | 50,000円 | 戻らない |
| 戻らない分の合計 | 259,000円 |
1回引っ越すごとに、約26万円が消えます。家賃の4か月分です。
35年で、家賃以外にいくら払うか

家賃6.5万円のまま35年住み、8年に1回(計4回)引っ越すとします。
| 家賃(6.5万円×12か月×35年) | 2,730万円 |
| 更新料(2年ごとに1か月分・17回) | 110.5万円 |
| 引っ越し(戻らない分26万円×4回) | 103.6万円 |
| 家賃以外の合計 | 214万円 |
| 35年の総額 | 2,944万円 |
「家賃は毎月払っているから分かっている」という人でも、この214万円は意識から抜けています。2年に1回、8年に1回と、ばらけて来るからです。
引っ越しの回数で、こう変わります
| 35年間の引っ越し回数 | 引っ越しに消えるお金 |
|---|---|
| 2回(約17年に1回) | 52万円 |
| 4回(約8年に1回・平均) | 104万円 |
| 7回(5年に1回) | 181万円 |
5年に1回引っ越す人と、17年に1回の人では、130万円の差がつきます。賃貸の強みは「動けること」ですが、動くたびに26万円かかることは知っておいてください。
払わなくていいもの、3つ

ここからが本題です。上の表の中に、法律や指針で「本来払わなくていい」と決まっているものが混ざっています。
① 仲介手数料は、原則「0.5か月分」です
ほとんどの人が「家賃1か月分+消費税」を払っています。でも、国土交通省の告示では、居住用の賃貸の仲介手数料は「依頼者の一方から受け取れるのは賃料の0.5か月分以内」が原則です。
1か月分を請求できるのは、借主が承諾した場合だけ。そして多くの場合、その「承諾」は申込書の一文にサインすることで済まされています。
6.5万円の家賃なら、0.55か月分は35,750円。1.1か月分との差は35,750円です。4回引っ越せば14万円。
実務上、「半額にしてください」と言って通るかどうかは不動産会社によります。ただ、最初から仲介手数料半額・無料をうたっている会社は増えています。物件を探すときの条件に入れるだけで、この分は消えます。
② 退去時の「通常の使い方で傷んだ分」は、払わなくていい
退去のとき、敷金から「クロスの張り替え」「クリーニング」「畳の表替え」を引かれて、ほとんど戻ってこなかった——という経験がある方は多いと思います。
ここは、はっきり決まっています。
2020年4月に施行された改正民法(第621条)で明文化されました。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」も同じ考え方です。
借主が払うのは、「わざと」「不注意で」「手入れを怠って」傷めた分だけ。日焼けしたクロス、家具を置いた跡、画鋲の穴は、払わなくていい。タバコのヤニ、ペットの傷、掃除しなかった油汚れは、払う。この線引きです。
消費生活センターに寄せられる賃貸のトラブルの3〜4割が、この敷金と原状回復です。それだけ、本来払わなくていいものを払っている人が多いということです。
③ 火災保険は、自分で選べます
契約時に「この火災保険に入ってください」と指定され、2年で2万円前後を払っている方が多いと思います。
火災保険への加入は契約の条件になっていることがほとんどですが、「どの保険会社にするか」まで強制することはできません。同じ補償内容なら、自分で探した保険のほうが安いことがよくあります。年間4,000円程度の商品もあります。
火災保険で見るべきなのは、火事より水漏れ(借家人賠償責任)です。火災保険の記事に書きましたが、賃貸で本当に必要なのはこの部分です。
更新のときに、できること
更新料は、首都圏では「2年ごとに家賃1か月分」が慣習です。国の調査でも、更新料がある世帯の77%が1か月分を払っています。
ただしこれは慣習であって、法律ではありません。大阪や兵庫にはほぼ存在しません。
更新のタイミングは、実は家賃を見直す機会でもあります。周辺の同じ条件の物件より家賃が高くなっていれば、借地借家法には「家賃が不相当になったときは減額を請求できる」という条文があります(第32条)。
「言えば必ず下がる」わけではありません。でも、言わなければ絶対に下がりません。更新の案内が来たら、同じ建物・近くの物件の家賃を1回だけ調べてみてください。
引っ越すなら、3月を避けてください
引っ越し業者の料金は、時期で倍近く変わります。
- 3〜4月(繁忙期)……単身で6〜10万円
- 通常期……単身で3〜5万円
- いちばん安い時期……1月・6月・11月
4回の引っ越しを全部3月にすると、通常期に比べて16万円ほど多く払う計算になります。仕事や学校の都合で動かせないこともありますが、選べるなら避けてください。
正直に言うと、いちばん重い話

ここまでは、お金の話でした。最後に、お金では解決しにくい話を書きます。
2025年7月に行われた調査で、65歳を過ぎて部屋探しをした人の30.4%が、年齢を理由に入居を断られた経験があると答えています。3人に1人です。
断る側の理由は、孤独死への不安、保証人がいないこと。収入の多い少ないは、あまり関係ありませんでした。
若いうちは1週間で次が決まります。でも、70歳で「今の家を出てください」と言われたとき、次が決まる保証はありません。
だから、賃貸で暮らし続けるなら、60歳までに「最後の家」を決めておくのが現実的だと思います。60歳なら、まだ借りられる。そこで長く住める家に移って、動かない。あるいは、そのタイミングで小さな家を買う。
昨日の記事で「持ち家か賃貸かは損得で決まらない」と書きました。でも老後については、損得ではなく「借りられるかどうか」で決まる場面があります。ここは正直に書いておきます。
正直に言うと
この記事で出した214万円は、賃貸をやめる理由にはなりません。
昨日計算したとおり、持ち家には持ち家の費用があります。金利1.2%で35年借りれば、利息だけで811万円。214万円は、その4分の1です。
私が言いたいのは、「家賃以外は見えていない」ということです。
毎月の家賃は、家計簿に載ります。でも2年に1回の更新料と、8年に1回の26万円は、特別費として予定に入れていないと、そのたびに貯金から消えます。
更新料1か月分+引っ越し4か月分+余裕1か月分。これがあれば、更新も引っ越しも、慌てずに済みます。そして仲介手数料を半額にして、原状回復で払わなくていいものを払わなければ、この6か月分はなかなか減りません。
そして、浮いた分は積立に回す。暴落が来ても売らずに持っておく。老後は、その資産を定率で崩して家賃に充てる。賃貸で暮らす人の老後資金は、こうやって作るしかありません。持ち家の人と違って、家という資産が残らないからです。
今日やること
ひとつだけです。
いまの賃貸契約書を出して、「更新日」と「更新料」を確認してください。
次の更新がいつで、いくらか。それを特別費のリストに1行書く。それだけで、次の更新料は「不意打ち」ではなく「予定」になります。
まとめ
- 賃貸の人は平均8年に1回引っ越している(家賃の中央値は6万5,000円)
- 1回の引っ越しで戻らないお金は約26万円(家賃6.5万円の場合)
- 35年で家賃以外に払うのは約214万円=家賃の33か月分
- 仲介手数料は原則0.5か月分。1か月分は「承諾した場合」だけ
- 退去時、普通に使って傷んだ分は払わなくていい(民法621条)
- 火災保険は自分で選べる
- 65歳以上の3人に1人が入居を断られている。60歳までに「最後の家」を決める
家賃は見えています。見えていないのは、家賃以外です。そこを予定に入れれば、賃貸は十分に堅実な選択です。
※本記事は2026年9月時点の公表情報にもとづきます。家賃の中央値・居住期間・世帯主年齢は国土交通省「令和6年度住宅市場動向調査」(三大都市圏)、更新料の実態は同「令和4年度住宅市場動向調査」、仲介手数料の上限は国土交通省告示(昭和45年建設省告示第1552号・最終改正令和6年)、原状回復の考え方は国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」および民法第621条、高齢者の入居拒否はR65不動産「高齢者の住宅難民問題に関する実態調査(2025年)」によります。初期費用・引っ越し代・更新料の金額は一般的な目安で、物件・地域・時期により異なります。この記事は個別の助言ではありません。



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