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本屋さんのお金コーナーに行くと、いつも同じ場所にいる本があります。
表紙は、砂色。古代の街の絵。分厚い漫画。
『バビロン大富豪の教え』です。
新刊が毎月のように出て、去年のベストセラーが今年には消えていく——そんな棚のなかで、この本だけが動かない。不思議だな、と思っていました。
調べてみて、理由がわかりました。
この本のもとになった話が世に出たのは、1926年。
つまり——今年2026年で、ちょうど100年です。
100年、売れ続けている。
それは「よくできた本」というより、「まだ誰も卒業できていない本」ということなのかもしれません。
今回の「お金の本棚」は、この1冊を読み解きます。
そして最後に、少し意地悪な答え合わせをします。100年前の教えは、いまの日本で守られているのか——という答え合わせです。
- 『バビロン大富豪の教え』はどんな本か(漫画版の読みやすさも正直に)
- 「黄金に愛される七つ道具」の全体像を、7行で
- 「七つ道具」と「五つの黄金法則」の違い
- 100年読まれ続ける「3つの要点」
- 100年後の日本での答え合わせ——第一の教えは、守られているのか
- ほぼ同じ時代、日本にも同じことを言った人がいた話
- 正直な注意点3つ(買う前に知っておきたいこと)
- 読んだあと、何から始めるか(当ブログの実践マップ)
どんな本?|100年前のアメリカで生まれた、バビロンの物語
まず、成り立ちから。
原著者はアメリカのジョージ・S・クレイソン。1926年に、お金についての短い寓話を小冊子として出しはじめました。舞台は古代バビロン。粘土板に刻まれた知恵、という設定の物語です。
これが評判になり、当時の銀行や保険会社が、顧客向けの配りものとして大量に配布したといわれています。教科書ではなく、街のなかで手から手へ広まった本でした。
いま日本でよく売れているのは、その物語を漫画にした版です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 書名 | 漫画 バビロン大富豪の教え |
| 原著 | ジョージ・S・クレイソン |
| 漫画 | 坂野旭 |
| 脚本 | 大橋弘祐 |
| 出版社 | 文響社 |
| 発売日 | 2019年10月4日 |
| ページ数 | 466ページ |
466ページ。かなり分厚いです。
ただ、大半が漫画なので、実際に読むと数時間で終わります。文字の本が苦手な人ほど向いている、めずらしいタイプのお金の本です。
物語の主人公は、武器屋の息子バンシル。友人とともに、バビロン一の大富豪アルカドを訪ねるところから始まります。アルカドは彼に「黄金に愛される七つ道具」を授け、旅に出てその正しさを証明してこい、と送り出します。
そしてバンシルは——見事に失敗します。
楽をして増やそうとして、痛い目に遭う。借金を背負い、奴隷に落ちる寸前まで追い込まれる場面まであります。
ここが、この本のうまいところだと思っています。教えを聞いたはずの主人公が、その通りにできない。読んでいるこちらと、同じ失敗をしてくれるんです。だから説教に感じません。
|
漫画 バビロン大富豪の教え 「お金」と「幸せ」を生み出す黄金法則 [ ジョージ・S・クレイソン ] 価格:1782円 |
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「七つ道具」の全体像|私の言葉で、7行にすると
先に地図を出しておきます。本のなかの言い回しではなく、私が読んで受け取った内容を、1行ずつに直したものです。
- 収入の十分の一を、まず取り分ける
- 欲しいものに、順番をつける(全部は買えない)
- 貯めたお金にも、働いてもらう
- 減らさないことを、増やすことより優先する
- 住まいを整える
- 未来の自分に、いまから送っておく
- いちばんの資産は、自分自身

並べてみると、拍子抜けするくらい当たり前です。
でも——当たり前だと思ったものを、7つ全部やれている人は、ほとんどいません。私もできていませんでした。この本の価値は、新しさではなく、その「できていなさ」を突きつけてくるところにあります。
このあと、とくに効く3つを深掘りします。残りの4つは、記事の後半で「最初の一歩」とセットで表にまとめました。
「七つ道具」と「五つの黄金法則」は、何が違うの?
この本を調べていると、必ず両方の言葉が出てきて混乱します。副題にも「五つの黄金法則」と入っていますし。
ざっくり整理すると、こうです。
| 呼び名 | 性格 |
|---|---|
| 黄金に愛される七つ道具 | 実践のチェックリスト。自分が何をすればいいか |
| 五つの黄金法則 | お金の側から見た条件。どういう人のところに集まり、どういう人から逃げていくか |
視点が違うだけで、言っていることはかなり重なります。
ひとことでまとめるなら——コツコツ取り分けて、詳しい人の話を聞き、知らないものには手を出さない人のところに、お金は残る。逆に、うますぎる話に乗る人からは逃げていく。それだけです。
難しい理屈は、本当に出てきません。
要点①|収入の十分の一を、まず取り分ける
七つの教えのうち、いちばん最初に出てくるのがこれです。
そして——正直に言うと、この1つだけで、この本の価値の半分はあります。
入ってきたお金の十分の一を、自分のために取り分ける。残りの十分の九で暮らす。それだけ。
手取り20万円なら2万円。手取り30万円なら3万円。
「たったそれだけ?」と思うでしょうか。私も最初はそう思いました。
でも、この教えの本当の中身は金額ではなく、順番です。
ほとんどの人は、こう考えます。
この式だと、貯金は「あまりもの」です。あまりものは、まず残りません。
本が言っているのは、こちらです。
先に取り分けて、残りで暮らす。
順番を入れ替えるだけで、結果がまるで変わります。

がまんの量は、増えていないことに注目してください。順番を変えただけです。
当ブログでも先取り貯金として、まったく同じことを書いています。100年前の本と、いまの日本のブログが同じ結論になっている——それくらい、ここは動かない部分だということです。
要点②|貯めたお金にも、働いてもらう。ただし「知らないもの」には近づかない
2つめは、貯めるだけで終わらせない、という話です。
本のなかでは「黄金に働かせる」という言い方をします。お金がお金を生む状態を作る、ということですね。
ここまでは、よくある話に聞こえるかもしれません。
この本がすごいのは、その直後に、必ずブレーキを踏むことです。
物語のなかで、主人公たちは何度も失敗します。宝石商に騙されたり、経験のない相手に大金を預けたり。そして、こう教えられます。
- 自分がよく知らない商売には、お金を出さない
- その分野に詳しい人の意見を聞く。ただし、詳しくない人の意見は聞かない
- うますぎる話には、必ず裏がある
「増やし方」を教える本は山ほどありますが、同じ本のなかで「減らし方」まで丁寧に書いている本は、そう多くありません。
1926年の時点で、すでに投資詐欺は存在していたわけです。100年経っても、SNSで「絶対儲かる」と言ってくる人は消えていません。人間、あまり進歩していないのかもしれません。
いまの日本でこの教えを実行するなら、素直に新NISAのつみたて投資枠から始めるのが現実的です。中身がわからないまま個別株に飛びつくとどうなるかは、個別株とインデックス投資の比較記事に書きました。
※投資は元本割れの可能性があります。本記事は特定の商品を推奨するものではありません。
要点③|いちばんの資産は、自分自身
3つめ。ここが、この本がただの貯金本で終わらない理由です。
七つの教えの最後は、「自分こそを最大の資本にせよ」という趣旨のものです。
どれだけ節約しても、入ってくる額が小さければ限界があります。だから稼ぐ力そのものを育てなさい、と本は言います。
物語のなかで印象的なのは、すべてを失った登場人物が、そこから這い上がっていく場面です。彼らが最後に頼りにしたのは、貯めた金でも、人脈でもありませんでした。「自分にできること」のほうでした。
お金の本なのに、いちばん熱量が高いのがこの部分、というのが面白いところです。
当ブログで言えば、副業・転職・リスキリングのカテゴリが、まるごとこの教えの続きにあたります。
100年後の、答え合わせ
ここからが、今回いちばん書きたかった部分です。
1926年に「収入の十分の一を貯金せよ」と書かれました。
では——100年後の日本で、それは守られているのでしょうか。
第一の教えは、まだ達成されていない
金融経済教育推進機構(J-FLEC)の「家計の金融行動に関する世論調査」(2025年)を見ると、こうなっています。
| 世帯 | 金融資産を持たない世帯の割合 |
|---|---|
| 単身世帯 | どの年代でも、おおむね3割(20代33.2%/50代35.2%) |
| 二人以上世帯 | おおむね10〜21% |
十分の一を貯めるどころか、一人暮らしの3人に1人は、金融資産がゼロです。しかも20代だけの話ではなく、50代でも3割を超えています。
つまり100年経っても、この本の第一の教えは、社会全体ではまだ達成されていない。
だから売れ続けているのだと思います。これは「古い本」ではなく、「まだ誰も卒業していない本」なんです。
※出典:金融経済教育推進機構(J-FLEC)「家計の金融行動に関する世論調査」2025年。年代別の詳しい数字は年代別の貯金額の記事にまとめています。
同じころ、日本にも同じことを言った人がいた
そしてもう1つ、調べていて鳥肌が立った話をさせてください。
クレイソンがアメリカでバビロンの寓話を書いていたのとほぼ同じ時代、日本にも、そっくりなことを言っていた人物がいます。
本多静六。1866年、埼玉の貧しい農家に生まれ、苦学して東京帝国大学の教授になった人です。
日比谷公園を設計し、明治神宮の森をつくった——「公園の父」と呼ばれる人物、と言ったほうが通りがいいかもしれません。
その本多静六が実行した方法が、これです。
臨時収入は、全額そのまま貯蓄へ
バビロンの十分の一より、さらに厳しい四分の一。
彼はこれを元手に投資をして、巨万の富を築きました。そして定年と同時に、財産のほとんどを寄付して、質素な生活に戻っています。
ここで大事なのは、金額の大小ではありません。
太平洋を挟んだ、まったく交流のない二人が、ほぼ同じ時代に、ほぼ同じ結論に辿り着いた——という事実のほうです。
- 先に取り分ける
- 残りで暮らす
- 貯まったら、それに働いてもらう
洋の東西で答えが一致するとき、それはもう流行ではなく、原理に近いのだと思います。

で、十分の一と四分の一、どっちから?
私の答えは十分の一です。
理由は単純で、続くほうが強いから。
四分の一は正しいのですが、いきなり始めると生活が苦しくなって、たいてい2〜3ヶ月でやめてしまいます。ゼロに戻ってしまえば、正しさに意味はありません。
十分の一で1年続けられた人が、そのあと四分の一に上げればいい。順番は、いつでもそちらです。
正直な注意点|3つの心得
いい本ですが、万能ではありません。買う前に知っておいてほしいことを3つ。
これはマインドの本です。「先に取り分けよ」とは書いてありますが、どの口座を使い、どう自動化するかは書いていません。読み終えて「で、明日から何を?」となるのは、あなたのせいではなく本の性質です。手順のほうは、当ブログが担当します。
七つの教えのなかには「住まいを持て」という趣旨のものがあります。1920年代のアメリカでは正しかったかもしれませんが、いまの日本にそのまま当てはめるのは危険です。2026年は金利が動きはじめた局面で、持ち家か賃貸かは家計ごとに答えが変わります。住居費は家計で最大の固定費です。まずは固定費という視点から見直すほうが、確実に効きます。
物語がしっかりある構成なので、「要点だけ最短で」という読み方には向きません。ただしこれは弱点であると同時に長所でもあって、物語で覚えたことは忘れにくい。実際、私も細かい理屈より登場人物が失敗する場面のほうを覚えています。トレードオフとして納得できるなら、買いです。
読んだあと、どう動く?|当ブログでの実践マップ
七つの教えを、私なりの言葉に置き換えて、「最初の一歩」と並べてみました。
| 本の教え(要約) | 最初の一歩 | 当ブログの記事 |
|---|---|---|
| 収入の十分の一を、先に取り分ける | 給料日に自動で引く仕組みを作る | 先取り貯金/口座の使い分け |
| 欲しいものに、順番をつける | 我慢ではなく、固定費から削る | 固定費の見直し/やってはいけない節約術 |
| 貯めたお金にも働いてもらう | まずはつみたてから | 新NISA完全ガイド/オルカンvsS&P500 |
| 減らさないことを、増やすより優先する | 投資の前に、現金の守りを作る | 生活防衛資金/個別株とインデックス |
| 住まいを整える | 家計に占める住居費の割合を見る | 家計管理の黄金比率 |
| 未来の自分に、いまから送る | 受け取る日から逆算する | iDeCo完全ガイド/iDeCoの受け取り方 |
| いちばんの資産は、自分自身 | 稼ぐ力そのものを増やす | 副業19選/転職で年収アップ/リスキリング |
本で「地図」を手に入れて、記事で「一歩目」を踏み出す。この順番がいちばん効率がいいと思っています。
こんな人におすすめ/慎重に検討したい人
| おすすめできる人 | 慎重に検討したい人 |
|---|---|
|
・お金の本を、最後まで読めたことがない人 ・貯金が続かず、自分を責めてしまう人 ・何から始めるかで止まっている人 ・子どもや家族と一緒に読みたい人 |
・具体的な商品名や手順が欲しい人 ・すでに先取り貯金を実行できている人 ・要点だけ短時間で知りたい人 ・漫画を読むのが苦手な人 |
とくに「子どもや家族と一緒に読みたい人」には、これ以上の候補が思いつきません。漫画で、物語で、説教くさくない。お金の話を家庭に持ち込むための入口として、かなり優秀です。
よくある質問
Q. 漫画版と、文字だけの版。どっちを買えばいいですか?
お金の本を最後まで読み切ったことがないなら、迷わず漫画版です。読了率がまるで違います。文字の版(『バビロンいちの大金持ち』などの訳書)は、物語が短くまとまっていて、要点だけ拾いたい人向け。「読み切れるほう」が正解で、それ以上の理屈はいりません。
Q. 子どもでも読めますか?
漫画なので、小学校高学年くらいからは十分読めると思います。借金や奴隷といった重い場面はありますが、暴力的な描写が売りの本ではありません。むしろ「お金の話を家庭でどう切り出すか」に困っている家庭にとって、本を1冊置いておくのがいちばん角が立たない方法だったりします。
Q. 投資の具体的なやり方は載っていますか?
載っていません。「知らないものに投資するな」「詳しい人に聞け」という原則までです。1926年の本なので当然ですが、ここを期待して買うとがっかりします。具体的な制度や商品の話は、新NISAの記事やiDeCoの記事のほうをどうぞ。
Q. 「十分の一」に、ボーナスは含めますか?
本にはっきりした答えはありませんが、私の意見は「ボーナスは別扱いにして、もっと多く取り分ける」です。毎月の給料と違って、ボーナスは使わなくても生活が回っているお金だからです。実際、本多静六も臨時収入は全額を貯蓄に回していました。半分でも、三分の一でもいい。入る前に、行き先を決めておくのがコツです。
Q. 『金持ち父さん 貧乏父さん』とは、どう違いますか?
ざっくり言うと、バビロンは「守り」、金持ち父さんは「攻め」です。バビロンは貯める・守る・自分を育てる話が中心で、はじめの1冊向き。金持ち父さんは資産と負債の考え方や不動産の話が入るぶん、刺激は強いですが人を選びます。順番としては、バビロンが先だと思います。金持ち父さんのほうはお金の本棚 #1で正直に書きました。
たこ先生の、正直な話
私はこの本を読んだ日に、貯金用の口座を1つ作りました。やる気は満々でした。
そして——3ヶ月でやめました。
理由は、いま思えば単純です。口座は分けたのに、「余ったら入れる」をやっていたから。月末に残りませんでした。当たり前です。
やり直したのは、給料日に自動で移すように設定してからでした。手をかけなくなった瞬間に、あっけなく続きました。
この本が教えてくれたのは、たぶん金額ではなく順番だったんだと思います。私はそれを、1回失敗してからようやく理解しました。
まとめ
- 原著は1926年。2026年で、ちょうど100年読み継がれている本
- 要点は3つ:十分の一を先に取り分ける/貯めた金に働かせる(知らないものには近づかない)/自分自身が最大の資本
- この教えの中身は金額ではなく順番。「余ったら貯める」を「先に取り分ける」に入れ替えるだけ
- 100年後の答え合わせ:単身世帯の約3割が金融資産ゼロ。第一の教えは、まだ社会全体では達成されていない
- ほぼ同時代の日本にも本多静六の「四分の一天引き貯金」があった。洋の東西で結論が一致する=これは流行ではなく原理
- 心得は3つ:やり方は書いていない/100年前の前提が混じっている/466ページは遠回りにもなる
- 読んだあとの一歩目は、先取り貯金の自動化から
次回の「お金の本棚 #3」は、『サイコロジー・オブ・マネー』を予定しています。「なぜ人は、正しいと分かっていることをやらないのか」を扱った本です。今回の答え合わせの、ちょうど続きになります。


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