2026年8月4日、国民生活センターが「自宅のリースバック」について注意喚起を出しました。
相談件数は2019年度の24件から、2024年度は239件へ。5年で約10倍です。そして契約者の約7割が70歳以上でした。
問題は、契約書に書かれた数字を確かめないまま印鑑を押してしまうことです。そして一度売ったら、クーリング・オフはできません。
この記事では、実際の相談事例と、電卓で確かめられる計算を並べます。
ご自身が検討中でなくても、親御さんに勧誘が来ることがあります。そのときのために読んでおいてください。
- リースバックの仕組みと、なぜ数字が合わなくなるのか
- 3,000万円の家で計算すると、何年で現金が消えるか
- 国民生活センターに届いた実際の相談3件
- 契約前に確認する5つの質問
- それでも向いている人と、他の選択肢
リースバックとは、何か

仕組みはとても単純です。
- 自宅を業者に売る……まとまった現金が入ります
- 所有者が変わる……家は業者のものになります
- 家賃を払って住み続ける……賃借人として、そのまま暮らします
「住み慣れた家に住み続けられる」——これは本当です。嘘ではありません。
問題は、「いつまで」と「いくらで」が、契約しだいで決まることです。そしてその条件は、たいてい業者が決めます。
数字にすると、こうなります
ここが、この記事でいちばん読んでほしい部分です。

まず、2つのルールを覚えてください。
② 毎月の家賃 = 買取価格 × 期待利回り ÷ 12
期待利回りは都市部で7%前後、郊外で13%前後とされています。
では、市場価格3,000万円の自宅で計算します。
| 市場で普通に売ったら | 3,000万円 |
| リースバックの買取価格(相場の7割) | 2,100万円 |
| 毎月の家賃(利回り8%) | 14万円 |
年間の家賃は168万円です。受け取った2,100万円を、この家賃に充てるとどうなるか。
2,100万円 ÷ 168万円 = 12.5年。
郊外で利回り13%なら家賃は月22.7万円。7年8か月でなくなります。
70歳で契約したら、82歳で現金がゼロになる計算です。そのとき、住む家はありません。
これが「現金も家も、両方なくなる」という形です。
実際に起きていること
国民生活センターが公表した相談事例です。3件とも70歳代の方でした。

事例1|家賃を値上げされた
築40年の分譲マンションを、約1,000万円で売却。6年後、月7万円だった家賃を10万円にすると言われました。応じなければ退去を迫られています。
事例2|リフォームも同じ日に契約
1,100万円で自宅を売却したその日に、450万円のリフォーム工事を契約。売却代金では3年ほどしか住み続けられない計算になりました。
事例3|買い戻しが5倍に
200万円で売却。あとで買い戻したいと伝えたところ、1,000万円を提示されました。契約は2年の定期借家で、家賃は月2万円です。
罠は、4つあります
①売却価格が、相場より安い
相場の6〜8割というのは、業者側の説明としては筋が通っています。すぐに現金化するリスクを負うからです。
問題は「相場がいくらか」を知らないまま契約してしまうこと。1社の査定だけで決めると、それが安いのかどうか判断できません。
②家賃が、相場より高くなることがある
家賃は近所の家賃相場ではなく、買取価格と利回りで決まります。ここが盲点です。
近所の同じ広さの部屋が月10万円で借りられるのに、リースバックだと14万円。そういうことが普通に起こります。
③定期借家だと、期間で追い出されます
賃貸借契約には2種類あります。
| 普通借家 | 定期借家 | |
|---|---|---|
| 期間が来たら | 原則、更新できる | 出ていく |
| 家賃 | 高くなりやすい | 抑えられる |
事例3の「2年の定期借家」は、2年後に住む場所がなくなる可能性があるということです。家賃が安いのには理由があります。
④買い戻し価格に、決まりがありません
「あとで買い戻せますよ」と言われても、その価格に法律上の決まりはありません。
200万円で売って1,000万円を提示される。それが不当だと言い切る根拠も、実はないのです。書面に価格が明記されていなければ、口約束は意味を持ちません。
クーリング・オフは、効きません
ここは、必ず知っておいてください。
宅建業法のクーリング・オフは「業者が売主、消費者が買主」の場合の制度です。リースバックは消費者が売主なので、対象外になります。
訪問販売でも、電話勧誘でも同じです。契約書に署名して登記が移れば、もう戻せません。
契約する前に、この5つを

- 買取価格を、複数社で比べたか……1社だけで決めない
- 家賃を、近所の賃貸と比べたか……同じ広さがいくらか調べる
- 契約は普通借家か、定期借家か……定期借家なら、いつ出るのか
- 買い戻し価格が、書面にあるか……口約束は無効
- 他の契約を同時に迫られていないか……リフォームの抱き合わせ
ひとつでも答えられないなら、まだサインしないでください。
消費者ホットラインです。「いやや」と覚えます。最寄りの消費生活センターにつながります。
それでも、向いている人はいます
公平に書きます。リースバックが合理的な場面もあります。
- 住宅ローンの返済が苦しく、競売を避けたい……競売より高く売れることが多いです
- 短期間だけ住めればいい……引っ越し先が決まるまでのつなぎ
- 相続でもめそうで、現金にしておきたい……不動産は分けにくい資産です
- 固定資産税や修繕費の負担をなくしたい……所有者ではなくなるので、これらは不要になります
つまり「急いで現金が必要で、住み続ける期間が短い」ケースには向きます。
逆に「死ぬまでここに住みたい」という目的には、いちばん向きません。そこが噛み合っていないまま契約するから、トラブルになります。
他の選択肢も、見てから決める
| 方法 | 所有権 | 特徴 |
|---|---|---|
| リースバック | 失う | まとまった現金/家賃が発生 |
| リバースモーゲージ | 残る | 自宅を担保に借りる。亡くなった後に清算 |
| 普通に売って賃貸へ | 失う | 高く売れる。引っ越しは必要 |
| ローンの返済相談 | 残る | まず金融機関へ。条件変更ができることも |
特にリバースモーゲージは、リースバックと混同されがちですが別物です。所有権が自分に残ります。自治体や社会福祉協議会が扱っているものもあります。
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よくある質問
Q. 親が勧誘を受けているようです。どうすれば
その場で契約させないことが最優先です。「家族に相談してから」と言えば済みます。
正当な業者なら、待ってくれます。「今日決めてくれれば」と急がせる相手は、それだけで危険信号です。
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Q. すでに契約してしまいました
すぐに188か、お住まいの消費生活センターに相談してください。クーリング・オフはできませんが、契約の経緯によっては争える場合があります(強引な勧誘、判断能力の問題など)。
時間が経つほど不利になります。迷っている時間がいちばんもったいないです。
Q. 住宅ローンが残っていてもできますか
売却代金でローンを完済できるかどうかで決まります。残債のほうが多い場合は、原則できません(任意売却などの別の手続きになります)。
Q. 家賃は将来上がりますか
普通借家でも、正当な理由があれば値上げを求められます。事例1がまさにこれです。「ずっとこの家賃」という保証は、契約書に書かれていない限りありません。
正直に言うと
この記事を書きながら、いちばん気になったのは「契約者の約7割が70歳以上」という数字でした。
老後資金が足りない、年金だけでは不安、でも家はある。その状況を狙って提案されているとしか思えません。
そして70歳を超えてから住む場所を失うのは、取り返しがつきません。もう一度住宅ローンを借りることも、新しく賃貸を借りることも、若いときより格段に難しくなります。
そのうえで、私はこう考えています。
自宅は、資産のなかでいちばん流動性が低く、いちばん失うと痛いものです。株なら半分売れますが、家は半分売れません。ゼロか100かしかない資産です。
だから判断は、他のどの資産より慎重でいい。1週間考えて逃す話なら、それは元々ろくな話ではありません。
そしてもうひとつ。「お金がない」と「家がない」は、まったく違う問題です。
お金がないのは、働く・借りる・制度を使う、といった手が残ります。でも住む場所がなくなると、その全部が難しくなります。順番として、家は最後まで手放さないほうがいい。
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まとめ
- 買取価格は相場の6〜8割が目安
- 家賃は買取価格 × 利回り ÷ 12。近所の相場では決まらない
- 3,000万円の家なら、7〜12年で現金が家賃に消える
- 定期借家なら、期間満了で退去になる
- 買い戻し価格に決まりはない。書面で確認する
- クーリング・オフは使えない
- 迷ったら、契約前に188
今日できることは、ひとつです。親御さんに、この話をしておくこと。
勧誘が来てから調べるのでは、たいてい間に合いません。「そういう話が来たら、まず私に言って」——その一言があるだけで、防げます。
買取価格・家賃・利回りの水準は物件と業者によって大きく異なります。記載の試算は一例です。実際の契約にあたっては、宅地建物取引士・弁護士・消費生活センターなど、契約と利害関係のない専門家にご相談ください。この記事は法律・不動産の個別助言ではありません。
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