「老後2000万円問題」という言葉を、まだ覚えている方は多いと思います。2019年に大きな騒ぎになりました。
あれから7年。あの数字は、いまいくらになっているのでしょうか。
ただし、この数字も来年には変わります。2020年には、計算するとプラス40万円(つまり黒字)になった年すらありました。
この記事では、あの2000万円がどこから来たのかを分解して、9年ぶんの数字を並べます。そのうえで、この数字とどう付き合えばいいかを書きます。
- 2000万円という数字の出どころと計算式
- 2017年から2025年までの9年ぶんの推移
- いまの数字(1,528万円)とその内訳
- なぜ赤字が減ったのか
- この数字が答えていない4つのこと
2000万円は、こうやって出た数字です
まず、出どころをはっきりさせます。
2019年6月、金融庁の審議会がまとめた「高齢社会における資産形成・管理」という報告書に、この数字がありました。

計算式は、拍子抜けするほど単純です。
| ひと月の不足額 | 5.5万円(2017年の家計調査) |
| 期間 | 30年 = 360か月(65歳から95歳まで) |
| 合計 | 約1,963万円 |
ある1年の平均に、360をかけただけです。難しい将来予測をしたわけでも、緻密なシミュレーションをしたわけでもありません。
ちなみに報告書そのものの趣旨は「長生きする時代に備えて、早めに資産形成をしましょう」という前向きなものでした。それが「2000万円足りない」という部分だけが切り取られ、当時の金融担当大臣が報告書の受け取りを拒否する事態にまでなりました。
毎年、こんなに変わっています
ここからが本題です。同じ計算式を、毎年の家計調査に当てはめてみました。

| 年 | ひと月の不足額 | 30年ぶん |
|---|---|---|
| 2017年 | 54,519円 | 1,963万円(これが「2000万円」) |
| 2018年 | 41,873円 | 1,507万円 |
| 2019年 | 33,269円 | 1,198万円 |
| 2020年 | 1,111円の黒字 | +40万円 |
| 2021年 | 18,525円 | 667万円 |
| 2022年 | 22,270円 | 802万円 |
| 2023年 | 37,916円 | 1,365万円 |
| 2024年 | 34,058円 | 1,226万円 |
| 2025年 | 42,434円 | 1,528万円 |
同じ計算式で、プラス40万円からマイナス1,963万円まで動いています。
2020年に黒字になったのは、コロナ禍で外出が減り、支出が落ち込んだからです。「老後0円問題」とは誰も言いませんでした。数字が都合よく動いたときは、報じられないんです。
法則でも、予測でもありません。たまたまその年の平均が、そうだったというだけです。
なお、2020年に世帯の定義が変わっています(妻の年齢条件が60歳以上から65歳以上に)。2019年以前と以降を単純には比べられない点は、正直に書いておきます。
いまの数字は、1,528万円です
最新の2025年平均を分解します。

| 入ってくるお金(実収入) | 254,395円 |
| 出ていくお金(消費支出+税・社会保険料) | 296,829円 |
| 差し引き | 42,434円が不足 |
この42,434円に360をかけると、1,528万円になります。
なぜ、赤字が減ったのか
値上げが続いているのに赤字が減っているのは、意外に感じるかもしれません。数字を並べると理由が見えます。
| 2017年 | 2025年 | 増加 | |
|---|---|---|---|
| 実収入 | 209,198円 | 254,395円 | +45,197円 |
| 支出 | 263,717円 | 296,829円 | +33,112円 |
支出も3万円以上増えています。ただ収入のほうが、それを上回って増えたのです。
考えられる理由は3つあります。
- 高齢者が働くようになった……実収入には年金だけでなく勤め先収入も含まれます
- 厚生年金を受け取る世帯が増えた……共働き世帯が高齢期に入ってきています
- 世帯の定義が変わった……2020年から妻も65歳以上が条件になりました
ただし、これは「老後が楽になった」という意味ではありません。働いて収入を補っている結果でもあるからです。
この数字が答えていない、4つのこと
ここが、いちばん大事なところです。

1. 持ち家か、賃貸か
家計調査の高齢夫婦無職世帯は持ち家率が9割前後です。住居費が月に1万数千円しか計上されていません。
賃貸で月8万円払うなら、この時点で計算が月7万円ずれます。30年で2,500万円以上の差です。
2. 何歳まで生きるか
30年で計算していますが、35年なら金額は1.17倍になります。1,528万円は1,780万円ほどに増えます。
そして寿命は延び続けています。「長生きリスク」という言葉は不謹慎ですが、資金計画の上では現実です。
3. 介護が必要になるか
この平均には、介護費用がほとんど入っていません。元気に暮らしている世帯の平均だからです。
介護が必要になれば、支出の水準そのものが変わります。ここは別に見積もる必要があります。
4. あなたの年金額
厚生年金なのか国民年金なのか。共働きだったのか、片働きだったのか。ここで収入は倍近く変わります。
平均は、あなたの家計のことを何ひとつ知りません。
では、どうすればいいのか
やることは、実はひとつだけです。
それだけで、平均よりずっと正確な数字が出ます。
計算のしかたは、別の記事に手順としてまとめてあります。
▶︎ 老後資金、自分にいくら必要かの計算方法2026年版|不安を数字に変える
そして足りない分をどう埋めるかは、制度を使うのが先です。
▶︎ iDeCo完全ガイド2026年版|3つの節税・今年の改正・注意点まで正直に解説
よくある質問
Q. 1,528万円あれば、安心ですか
いいえ。この数字は持ち家で、介護がなくて、95歳までで、平均的な年金がある世帯の話です。条件がひとつ変わるだけで、答えは大きく動きます。
Q. 「2000万円問題」は、解決したのですか
していません。数字が下がっただけで、構造は変わっていません。むしろ高齢者が働いて収入を補っている面があるので、その働けなくなった先を考えると、楽観はできません。
Q. 年金は本当にもらえますか
制度がなくなることは考えにくいですが、受け取れる額が実質的に目減りしていく方向であるのは確かです。だからこそ、自分の分を上乗せする仕組みが必要になります。
Q. いまから貯めても間に合いますか
年齢によります。ただ「間に合わないから何もしない」がいちばん損です。50代からでも、iDeCoの節税と繰下げ受給の組み合わせで動かせる幅はあります。
正直に言うと
私は、この手の「◯◯万円必要」という数字をあまり信用していません。
今回、9年ぶんを並べてみて、その気持ちが強くなりました。同じ計算式でプラス40万円からマイナス1,963万円まで動くなら、それは目標として使える数字ではありません。
それでも、この数字が果たした役割はあったと思っています。
2019年のあの騒ぎがなければ、老後のお金について考え始めなかった人は相当いたはずです。実際、新NISAやiDeCoが広く知られるようになったのは、あの前後からでした。
不安は、行動のきっかけとしては有効に働くことがあります。
ただし、不安のままで止まると、何も生みません。
私なら、この数字は「目標」ではなく「計算のしかたの例」として見ます。月の不足額に、生きる月数をかける。やり方はこれで合っているので、あとは平均ではなく自分の数字を入れるだけです。
そして、いちばん現実的な対策を書いておきます。
65歳以降も月5万円の収入があれば、それだけで30年分に換算して1,800万円になります。貯める側より、稼ぐ側のほうが効きます。
健康と、働き続けられるスキル。結局この2つが、いちばん大きな老後資金です。
まとめ
- 2000万円は2017年の平均 × 360か月で出た数字
- 同じ計算で2025年は1,528万円
- 9年間で+40万円〜−1,963万円まで動いている
- 赤字が減ったのは収入が支出以上に増えたから(働く高齢者の増加も含む)
- この数字は持ち家・介護なし・95歳までが前提
- やるべきはねんきん定期便で自分の数字を出すこと
平均に振り回される時間を、自分の数字を出す時間に使ってください。30分もあれば終わります。
家計調査の数値は毎年更新されます。また年金額は個人によって大きく異なります。実際の年金見込み額は、ねんきん定期便または「ねんきんネット」でご確認ください。この記事は個別の助言ではありません。
あわせて読みたい記事です。



コメント